大判例

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東京高等裁判所 昭和51年(う)2159号 判決

被告人 鈴木博 外一名

〔抄 録〕

原判決挙示の関係証拠によれば、被告人ら三名が動労組合員約四〇名と共謀のうえ、一、昭和四四年五月二八日午後五時五五分ころから同六時一五分ころまでの間本件建物五階およびその付近階段の壁、ドア等原判決別紙一記載の各箇所に約二、三〇〇枚のビラを前記二で認定したような方法で貼りつけ、ついで二、同日午後八時五〇分ころから午後九時二五分ころまでの間同建物二階の外壁、仕切壁など原判決別紙二記載の各箇所に約一、三〇〇枚のビラを前同様の方法で貼付けたことが認められる。所論は、同建物の右個所中各室のドア、ガラスがはめこまれている事務室の会計、乗車証窓口部分は単なる器物に過ぎず、本件建物の構成部分と認むべきではないと主張するのであるが、本件のような近代的ビルデングにおいては、その内部の各室はそれぞれ別異な目的で使用され、それ自体独立した区画とみなされており、各室にとりつけられているドアは各室内部と各室が共通の通路として使用する廊下とを判然と遮断する役割を果しており、また前記事務室の会計、乗車証窓口もガラスがはめこまれている枠は簡単には取りはずせないよう壁に埋めこむように取り付けられており、それ自体事務室内部と廊下とを遮断する役割を果しており、さらに各室のドアは本件建物の壁ないし柱に二個の蝶番でとりつけられ、そのとりはずしも自在なものではないことが認められるから、その建設、設置の過程では取り外しの可能な器物であったにせよ、取り付けが終わって建物としての建設、設置が完了した後はこれら扉等は通常の一戸建住宅におけるふすま、障子、引戸などのいわゆる建具と異なり、建物の構成部分をなすと解するのが相当であり(名古屋高裁昭和三八年(う)第七三六号、同三九年一二月二八日判決、下刑集六巻一一・一二号一、二四〇頁、最高裁昭和四〇年(あ)第一三七号、同四一年六月一〇日決定、最刑集二〇巻五号三七四頁参照。)、従って原判決の摘示する前記各別紙記載の各箇所はいずれも、原判決の判示するとおり、本件建物の構成部分をなすことは明らかである、そして前掲関係証拠によれば、前示のように本件建物の前記の各箇所にビラが貼られた結果、前記一2で認定したような本件建物が備えていた美観・威容を著しく害し、また内部の廊下の壁、天井等を著しく汚損し、またビラが消火栓が埋めこまれている壁面、各室の表示がなされている各扉のガラス部分、事務室会計、乗車証窓口のガラス部分にも貼られたため、それらの効用を害し、さらに前記二1で認定したように五階におけるビラ貼りの際、糊が廊下の床面に流れ落ちたため、床に貼られたリノリュームタイル二七枚ぐらいが剥げたり、原状回復工事の際廊下壁面に塗られていたペンキの一部が剥げ落ちたことが認められる。ところで刑法二六〇条の建造物損壊罪における「損壊」とは、建造物本来の効用を害するいっさいの行為をいい、その態様は建造物を物質的に毀損する場合のみならず、これを汚損して、建造物が有していた美観、威容、環境、機能等を害する場合をも含むと解すべきところ、本件においてビラが貼られたことによって本件建物内外の美観、威容、環境が著しく害され、また五階の消火栓、各室の表示、事務室窓口の効用が害され、さらに五階廊下のリノリュームタイル、壁の一部が毀損されたことは前記認定のとおりであるから、本件ビラ貼りは建造物の損壊に該当すると解するのが相当である。所論は、仮に本件ビラ貼りが「損壊」にあたるとしても、それは極小範囲の軽微なもので器物損壊ないし軽犯罪法に該当するにすぎないという。しかし本件ビラが貼られた原判示の各箇所がいずれも本件建物の構成部分であること、またビラが貼られた結果、全体としての建物の美観、威容、環境を著しく害し、またその効用を減損するなどしたことは前記認定のとおりであるから、これをその程度が軽微であるとし、その他器物損壊ないし軽犯罪法一条三三号に該当するとすることはできない。<中略>

本件ビラ貼りが労組法一条二項本文にいう正当な組合活動内の行為といえるかどうかについて検討するに、本件ビラ貼りは、動労組合員が、先に国鉄当局が昭和四四年六月一日から実施する旨決定していた機関助士の廃止に反対し、同年五月三〇日に行なわれることになっていたストライキに先がけ、動労の組合活動として行なったものであること、ビラはいずれも横約一三センチメートル、縦約三七センチメートルに統一され、その内容も「助士廃止断固紛砕」、「助士廃止反対、助役廃止賛成」など助士廃止反対を掲げるものが目立って多く、不穏当な内容のものや醜い用語を使用したものは見当らなかったこと、ビラ貼りは就業時間外に主として国鉄職員のみが使用している本件建物において行なわれたものであること等の事実が関係証拠によって認められ、また、ビラ貼りが国鉄当局に対する抗議、示威や組合内部の団結を強めるための実効性ある闘争手段であることは所論が指摘するとおりである。しかしながら、かかるビラ貼りが正当な組合活動として違法性を阻却されるといえるためには、それが社会通念に照らし、相当な組合活動として是認されるものでなくてはならないと解すべきところ、既に認定したように本件ビラ貼りは四〇名をこえる多数の組合員が、国鉄当局職制の制止を無視し、その面前で強行されたもので、貼られたビラは合計約三、五〇〇枚にも及び、その貼り方もモップや雑巾で糊を壁、扉などに大量に塗りつけ、これにビラを隙間なく集中的に不体裁に貼りつけ、これにより建物内外の美観、威容、環境、効用を著しく害し、その一部を損壊し、原状回復を著しく困難ならしめたものであって、右のような諸点に徴すれば、本件闘争に至る経緯、組合員らが本件ビラ貼りに及んだ動機、目的等の諸事情を考慮しても、本件ビラ貼りが社会通念に照らして相当な組合活動であるとはとうてい認めることができない。所論は本件当時動労と国鉄当局との間には、動労が組合活動として行なう本件のような国鉄施設を利用してのビラ貼りに対して国鉄当局は民事・刑事上の責任追求はしない旨の労使慣行が存在していた旨主張する。しかしながら仮に所論が指摘するように本件まで多数回にわたり動労がその組合活動として国鉄の施設を利用してビラ貼りを行ない、それに対して国鉄当局がこれまで実力でこれを阻止したり、捜査官憲に告訴をしたことがなかったとしても、関係証拠によれば、国鉄当局は本件に至るまでの間国鉄施設に対するビラ貼りについて何度も動労側に抗議していることが認められ、現に本件ビラ貼りの際には、白石克己、三橋隆ら職制が強くビラ貼りを制止し、鉄道公安職員が証拠保全のための写真撮影もしていることが認められるのであって、本件当時動労と国鉄当局との間に所論のような労使慣行があったとすることはできない。以上のとおりであるから原判決には労組法一条二項の解釈・適用の誤りはない。

(小松 千葉 鈴木)

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